潤滑油のイロハ 基礎知識
潤滑油の歴史
2つの物体がスベリあうときに生ずる抵抗、つまり摩擦を減らそうと言う試みは、すでに紀元前1400年ころには、牛車の軸受けにグリース状物質が用いられていたことが知られている。(エジプト古墳の中にあった戦車の軸受けから取り出された。分析から牛か羊の油と石炭から作られていた)
摩擦に関する最初の基礎的実験は、偉大な天才であるレオナルドダビンチによって行われた。彼は平面状にマッチ箱のような直方体の固体をすべらせて実験した様子が、かれのノートにスケッチとともに記している。
摩擦の損失
摩擦の為にエネルギーは熱となり無駄に損失してしまう。その損失は驚くほど大きくVpgelpohlによれば、全世界において発生する全エネルギーの1/3に達するという。
摩擦の種類
乾燥摩擦 静摩擦と動摩擦がある。2つの固体表面間に汚れの存在しない場合の摩擦である。汚れとは酸化膜や水蒸気を含めて、一般的汚れをいう。つまり潤滑物質が存在しない状態をさす。摩擦係数は非常に鋭敏であり酸化膜、窒素膜、水蒸気、ゴミなどの影響を著しく受けてしまう。
境界摩擦 静摩擦と動摩擦がある。2固体表面間に潤滑剤またはその他の不純物が存在し、加重が大きいか、すべり速度が小さい場合に起こる摩擦である。一般に潤滑油の存在するジャーナル軸受けにおいても高加重、低速において起こり、境界潤滑とも呼ばれる。
流体摩擦 2個体間は流体膜によってへだてられ、それらの摩擦は粘性流体内の摩擦におきかえられる。潤滑の条件としては最も理想的な状態である。
潤滑法
潤滑剤とは、2つの固体表面間の摩擦を減少させるような物理的性質および化学的性質を持っている物質の総称です。これには液体・固体・気体の各種状態であるが、一般には液体潤滑剤が多く、物質的性質を広く変化させて用いる事ができる。
潤滑タイプは2種類に分類される。
流体力学潤滑 2固体表面が完全に潤滑油により分離された状態で、運動に対する抵抗は潤滑油そのものの粘度によるもの。固体表面の磨耗が無い状態。
境界潤滑(特殊な状態として極圧潤滑も含める)低速高加重時におこる。摩擦係数が増大した状態。油膜が薄くなり流体力学法則が適用されなくなった領域。境界潤滑では、油と金属との境界に作用する油と金属との相関関係が要因となっているから、油の性質と金属の性質の両者から影響を受ける。固体間表面にも磨耗が起こる状態。
潤滑のタイプ 摩擦係数 磨耗
流体力学潤滑 0.001 なし
境界潤滑(極圧潤滑) 0.05〜0.15 小
無潤滑 約1.0 大
流体力学潤滑の利点は、理想的状態において、固体表面の磨耗が全くないことであり、摩擦係数は著しく低い。抵抗は油の粘度のみに由来する。粘度が小さければ抵抗も小さい。しかし粘度が減少すれば固体間の距離が小さくなるので、境界潤滑になりやすく、磨耗が発生する。よって機械の設計上では流体力学潤滑を保持できるような粘度を持つ、潤滑油を使用する必要がある。
境界化学現象
潤滑現象に於いて、従来、流体力学理論で説明できない場合はいつでも、これは境界面の影響であるとして、あいまいな説明が加えられていた。「油性」という言葉で表現される性質などはその例である。しかし潤滑油の境界面には、本質的に重要な変化がたえずおこなわれている。界面科学が研究に取り入れられたのは比較的最近のことであります。
界面化学現象とは、さび止め作用、泡立ちや乳化現象、内燃機油の分散清浄作用、凝固点降下作用などで、いずれも潤滑油の界面化学作用と考えられている。
油性
潤滑油の油性と呼ばれてきた性質は、かつてはアイマイな表現として使用されてきたが、今日では、それは潤滑油の海面現象の一つとして説明できるようになった。しかし明らかではない問題も残されている。流体力学潤滑から、加重の増大などで境界潤滑に入ると、摩擦係数は油の粘度に無関係になり、ある種の界面活性物質の吸着が、その領域では重要な役割を演ずることになる。
ここで有効な減摩作用を行う物質を「油性剤」と呼び、特に金属表面と反応して耐焼付性を増すものを「極圧剤」と呼ぶ。
高性能な潤滑油はそれらを添加することにより、境界潤滑性能を向上させている。
油膜の強さ
2つの固体材料間の摩擦、磨耗は表面分子間の接着または凝固、表面の凸凹のかみ合い、静電気的吸引力の作用が考えられているが、もっとも主な因子は接着である。油膜を破断する力は、油膜の吸着力と等しく、吸着分子の吸着エネルギーから換算することができる。
極圧剤の添加
極圧添加剤によって焼付きを防止し、磨耗を現象させようとする作用は、摩擦による発生熱を利用して添加剤の表面における化学反応を誘起し、耐摩耗性表面皮膜を構成させるもので、1つは金属と反応してセン断強さの小さい表面層を作るもの、他は、一部表面との反応は免れないが、先の効果に加えて、セン断強さの小さい金属を添加剤中から分解によって分離して耐磨耗性を与えるものがある。
さび止め作用
さび止め油のさび止め作用に必要な条件は、添加剤がまず金属表面に吸着されることであり、また、この際金属表面に水分が存在するときは、これと置換する必要がある。さらにこの添加剤皮膜の性質は添加剤分子が最稠密状態をとり、酸素の透過、水の浸透に対して抵抗を持ってなくてはならない。
炭化水素のような非極性物質や他の合成油のような弱極性物質を溶剤とするさび止め油中で界面活性が大きく、金属表面に優先的に吸着する。 この際添加剤の濃度が低いとき、添加剤分子が金属表面に向けて吸着するが、表面にぎっしり詰って飽和することが出来ない。
添加剤分子と金属表面との静電気的相互作用によって添加剤分子が金属表面に付着しているが、金属が科学的に活性な表面を持ち、添加剤分子が酸(例えば-COOH)や強塩基性のアミン化合物(例えば-NH2)の場合は。酸の水素原子やアミンの窒素原子が金属表面上の電子と配位結合すると考えられている。このような場合金属吸着が起こる。
酸 化
潤滑剤やグリースを良い状態で使用するためには、常温以上でも酸化に対する安定性が要求される。酸化による油の変質の状態は、科学的構成、油の精製法の種類と精製の程度によって異なってくる。
油の変質は、常温下でも在るが、125〜175℃のような温度で酸化すれば著しく反応が促進される。ことに金属を含む異物(汚れ)によって著しく促進され、酸化反応の速度や酸化過程も異なってくる。
酸化による油性の変化は、粘度変化、水に対する界面張力の低下、誘電定数の低下がある。
添加剤
潤滑油の添加剤使用量は年々増加している。その傾向は潤滑油に対する要求がますます過酷になるとともに、性能の向上が必要になってきている。
添加剤の種類
流動点降下剤 流動点を低くする為に添加する。
粘度指数向上剤 広い温度範囲で使用する場合、温度−粘度の関係を改善する目的で用いられる。
酸化防止剤 潤滑油の酸化を防止する目的で使用される。現在では添加が常識となっている。
清浄分散剤 内燃機関などで、燃焼によるスラッジやカーボンの付着を防止する、あるいは浄化する。一般的に酸化防止剤とかねる事が多い。
油製剤・極圧剤 金属表面と反応し、しかも速やかに極圧膜を構成できること。構成された極圧膜は比較的高融点をもつ。極圧膜は低いセン断強さを有する。科学的に不安定でないこと 以上がもとめられる。
さび止め添加剤 電気的に吸着し、なおかつ長期間にわたり安定する必要がある
消泡剤 消泡材と呼ばれる物でも、ある条件かでは起泡材になることもある。ある濃度下では消泡材として働くが、ある濃度範囲では、逆の働きをする場合がある。泡の周りの薄膜を安定させてしまう為である。
着色剤 添加剤として、洗浄分散材や酸化防止剤を加えることで、潤滑油は暗色を示してくる。したがって色により油の良否を判定するのは危険である。むしろ正しくない。しかし油が蛍光を有する事が喜ばれる場合は、次の様な物質を添加することで、蛍光を与える事が出来る。アントラキノン染料、ベンザンスロン、コールタール留出物など。
グリース
潤滑用グリースは一般に「潤滑油に増稠材をまぜて作った半固体または固体状の潤滑材」であると定義されている。増稠材を入れる為にグリースは潤滑部から流れ出さず、長くそこにとどまっていることになる。この増稠材として普通石けんが用いられ、最近では石けん以外のものとしてベントンやアリルウレアなど用いられる。
定義では固体状の潤滑材とあるが、グリースが固体状であるというのは、レオロジーの立場において考えられることであって、グリースに外力を与えると外力の小さい間は流れ出さないが、外力が大きくなるとある降伏値を示して流動し始める。すなわち、潤滑部においてジャーナルが動き始めると流動を起こして潤滑作用をいとなみ、さらに回転が早くなってセン断が大きくなると、基油になっている潤滑油の粘性に近い状態まで減少する。機械の運転が停止し、グリースの外力がなくなると、もとのように固体に戻る。
なぜこのような性質になるかは、増稠材の構造に関係ある。増稠材である石けんとして、ナトリウム、リチウム、ストロンチウム、バリウム、カルシウム、アルミニウムなどの脂肪酸塩がもっとも多く用いられる。